民間から公務員という道

僕の採用年度は同期に比較的民間企業経験者枠の方が多かったようで、今でも交流がある同期も数人いる。そういう同期の活躍の仕方を見ていてうらやましいなと思うのが、ジェネラリストであることが基本である行政職という仕事の中で、前職の民間企業時代に培った経験をベースに公務員としてのキャリアを積み上げている方が多いように見受けられる点だ。

新卒ではなくて民間企業勤務経験がある人を採用する理由は正にそれで、行政の内部では育成が難しい能力を、採用という形で手に入れてしまおうという話なのだから、ある意味当然のことを言っているだけといえばそれまでだ。
そこをなぜうらやましいかというと、彼ら彼女らが「初めから」色が付いている点にある。自分のような新卒採用だと、入庁から色々な部署を回され適性を見られ、徐々に色が付いていき、この人はあの行政分野、あの人はこの分野、という風にその人が籍みたいなものを置く部署が定められてくる。その籍みたいなものがある程度定まってしまったら基本はそこを中心に数年ごとの異動は決まっていくだろうから、もし自分が関わりたい行政分野があるのであれば、ある程度意識して自分の色を付けていく必要がある。もちろん人事は必ずしも自分の思うとおりに行くわけでないし、基本新卒採用のスタートは同じところからよーいどんなので(採用時の合格順位などの前提条件はあるが)、資格取得はじめ様々なアピールをもって自分を周りと差別化し(公務員の中で差別化ってなんだよと自分で言ってて違和感もあるが)、自分の人事を決める人事課や、自分の直接の評価をする上司などに伝えていく必要がある。一方、民間企業経験者は、採用時点で既に前職の経験で十分差別化できている。そこが、うらやましいというわけだ。

うらやましいという感情の原点には、自分自身が強みとする何の行政分野も持たず、ただ庶務的な業務をずっと回されてキャリアが終わるんじゃないかという不安があって、この分野ならこの人と言われる人はうらやましいという感情がある。結局行政の中の経験だけで、民間企業で中身の濃い経験をしてきた方々のような自分の差別化、色付けをするのはとても難しいと感じていて、そこに彼ら彼女らへのうらやましさ、羨望、尊敬みたいな感情がある。

学生時代、公共政策のゼミに所属していて、公務員になって世の中をよくする仕組み(政策)をつくりたい、なんて青臭い理想を持っていて、それなりに早い段階で公務員という進路は意識していて。そんな学生時代、自分が就職を考える際、新卒で公務員でいいのか?とちょっとだけ考えたことがある。青臭いようで、まっとうなようで、素直な疑問だったように思うが、新卒で公務員で一生公務員って人として常識なさすぎ、何か特定のスキルつかなさすぎなんじゃないかというような考えだった。上に書いたこととも照らし合わせて、それはそれで間違えていなかったとも思うけど、一方で公務員試験に合格するというゴールそのもので考えると、新卒枠のほうが競争率は低く、対して民間企業経験者枠というのはかなり競争率が高い。実際にそこを潜り抜けてきた方たちは名だたる有名企業出身者ばかりだ。たぶん自分が新卒でどこか入れる企業に就職したとして、そこから民間企業経験者枠で受験したとすると自分のスペック的にまず受かる競争率ではなくて、その意味で、公務員試験に合格するという意味では新卒枠で受験して正解だった。ゼミの指導教授が自分のそんな疑問をふとお話ししたときに、その話をされていたのを(入るのは新卒採用のほうが楽だよという趣旨)、あぁ教授がおっしゃっていたのはこのことかと今思う。平たく言えば、お前のスペック的にまず新卒枠じゃないと公務員はなれないだろうから、もし公務員なりたいならばかなこと言ってないで今受けとけよという意味だったのだろう笑 とてもお世話になったし、非常に人を見る目がある方だった。

名だたる企業で中身の濃い経験をしてきた人たちだから、当然受け取っていた報酬も高い。となると当然公務員になると受け取る給与はがくっと下がるわけで、それはある程度覚悟の上で公務員の世界に入ってくる。その動機は様々だろうけど、転勤が自治体内に限るとか、家族との時間とか、ワークライフバランスとか、その辺が占める割合は低くはないだろう。その辺を手に入れつつ、今までのキャリア、経験が組織に求められ、それを生かして活躍できるとすると、年収は落ちるにしても、民間ほどの仕事のダイナミズムはないにしても、それでも行政職員のキャリアとしては相対的にいい感じになるはずで、そのあたりがうらやましい。

強いて言うならば、たぶん行政の中で上り詰める人は新卒採用で行政純粋培養の人になることが多いことはたぶんある。これは民間行政問わず、保守的な業界、大きく古い組織、であれば珍しいことではないように思うけど、何か特定の分野に秀でているスペシャリストであることと、組織の中で花形とされる部署の在籍履歴がありつつ組織の色んな部署を幅広く回り組織自体について詳しいということは、両立しえないものでは決してないだろうけど、それでも少なくとも今は、生え抜きの人が上に上り詰めやすい構造は残っているように感じる。これからは違うのかもしれないけど。